こども基本法プロジェクト

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子どもたちの声Voice

2021.10.13

ブラック校則と子どもの権利を考える中高生ワークショップ

権利の侵害に繋がりかねない校則と、見直し機運の高まり。
見直しに向け、まずは子どもの声に耳を傾けて

ワークショップ参加者

  • Akarin
  • かれん
  • 黒兎
  • さえ
  • さとみ
  • ちまり
  • ひろ
  • ミズ
  • みはる
  • ももりん
  • ゆうこ
  • ゆら
  • るい

(ニックネームで五十音順。なお、参加者は西日本新聞こども記者経験者です)

学校に通う子どもにとって身近なルール、校則。校則の中には、不当に子どもの権利を侵害する「ブラック校則」と言われるものがあり、文部科学省からは2021年6月に改善通知が出されました。通知から2か月経った学校で生活をする子どもたちは校則と子どもの権利をどのように考え、大人にどんなメッセージを届けてくれたのか。本稿では、総勢14名が参加くださった中高生のワークショップの様子の一部をご紹介します。
「ブラック校則」に違和感を覚える中高生14名が自ら声を挙げる場に

ブラック校則と子どもの権利をテーマに大人への提言をするワークショップを開くとお伝えしたところ、「ぜひ参加したい!」と声を挙げてくださったのが、なんと14名。本日は3グループ(A、B、C)でワークショップを開催いたします。
今日は2時間で①こんな校則いらない!と思うことや、こんな風に校則が変わった!という経験をグループで共有します。そのあと、②そもそも校則はなぜあるのか、③「ブラック校則」はなぜよくないのかを議論したうえで、最後に④大人に向けてのメッセージを自由にいただけたらと思います。 では、早速始めていきましょう!

身近な「…え?」と感じる校則

まずは皆さんの身近にある「…え?」と違和感を覚える校則についてです。何かありますか?

―Aグループ:髪型に関する「ダメ」がとても多かったです。例えば、前髪は眉毛の上に、髪留めのパッチンはダメ、三つ編みOK・編み込NG、などです。あと服装関連だと、月1回くらい下着が白かどうか点検されます。男性の先生にされるのは本当に嫌です…。

―Bグループ:髪型については、このグループでも話題になりました。前髪は眉毛の上、という学校もあれば、目の上という学校もあってバラバラです。長い髪はおろしていることはダメで、しかも耳より下の位置で1つか2つに結ぶことしかできず…。
私は三つ編みが出来るほど髪が長くないので編み込みをしたら、服装検査で複数の先生にじろじろ見られて、「オシャレだからダメ!」と言われその日の夜に髪を切りに行きました。長く伸ばしたかったので、結構気持ち的にきつかったですね。他にも、夏場のカーディガンはダメ、なので通学時の乗り物の冷房が効きすぎていると寒い思いをしながら通学しています。

―Aグループ:共通して、先生が理由を説明できない校則が多いな、と思います。「私はいいと思うんだけどね…」と言う先生もいて。逆に「校則を守らないと進路に影響するぞ」などと脅しをかけてくる先生もいます。

―Cグループ:校則そのもの、ではないのですが、せっかく変わった校則(ツーブロック禁止だったのが、その文言がなくなった)について、特に生徒にアナウンスがないことにそれでいいのかな…と感じます。実際にまだ禁止されていると思っている生徒も多く、「変わった理由、そして変わったこと自体も伝えてくれないのか」と違和感がありますね。。

―Bグループ:確かに。あと校則に書かれていないものでも「ダメ」と言われることもあります。

―Aグループ:学校ごとに校則や生活点検の有無は違っていて、「正直校長先生の考え方次第だよね…」って話で盛り上がりました。校長先生に直談判するしかないのかな…。。

ありがとうございます。かなりいろいろな校則がありましたね…。
実際に皆さんの学校だけでなく、全国向けに行われたブラック校則をなくそう!プロジェクトによる調査では多くの人がブラック校則を経験していることが分かっています。

(1)3人に2人が中学校時代、2人に1人が高校時代に”ブラック校則”を経験している


(出所)ブラック校則をなくそう!プロジェクト ウェブサイト



一方で文部科学省からは、今年6月に「校則の見直し等に関する取組事例について」(事務連絡)出され、一部の校則の内容や指導が必要かつ合理的な範囲を逸脱していると指摘され、自治体や学校によっては校則を変えはじめようとする動きもありそうです。
皆さんの身の回りで校則が変わった、という経験ありますか?

変わり始める校則―子どもは意見を民主的に伝えはじめている―

―Aグループ:コロナの影響で、冬場でも頻繁に換気対策をするため、これまでダメだったひざ掛けがOKになりました。

―Bグループ:うちの学校では目安箱に生徒が意見を訴えてハーフアップがOKになりました。他にも別の学校では、生徒会を通じて、大人に意見を言える機会があって、テスト範囲の発表が1週間前だったのが2週間前に変わりました!学校によっては、民主的に変えていける部分もあると思います!

―Cグループ:Bグループと似ていて、自転車やスマートフォンの利用制限が少なくなったところもあって、生徒会からの意見で変わっていったように思います。

「校則」は誰のため?何のため?

なるほど、皆さん納得のいかないことにきちんと意見を伝え、話し合いを経て、解決していっているのですね。皆さんの体験や経験を共有いただき、有難うございました。では、ここからは、皆さんの所属する学校以外も含めて考えてみましょう。
本日のテーマの「校則」ですが、そもそも校則はなぜあると思いますか?

―Cグループ:生徒に悪いことをさせないために厳しい校則があるのでは、という意見と、校則は私たち生徒の安全を守るためにあるという意見もありました。確かに生徒の「平等」を守るために必要な規則もあると思います。

―Bグループ:社会人になってからもルールを守りながら生活していく、TPOのようなものを自然と身に着けるようにするためという意見がありました。でも先生が生徒たちを管理しやすくしたり、生徒が外から見てだらしなく見えないようにしたりするためにあるという意見もありました。

―Aグループ:Bグループと似た意見として、「他校から見たときにうちの学校が良く見えるように」とか、学校の理想像を作るため、といった意見がありました。でもCグループと似た意見もあって、「生徒一人ひとりが安全に過ごしていくため」とか、「決まりを作ることでみんな平等に」という声もありました。

―Cグループ:校則には本来ちゃんと必要性があることも多いのに、「髪型の校則は受験勉強に専念するためにあるんだ」とずれた理由を説明してくる先生がいることも気になっています。

改めて、ブラック校則は何が「ブラック」なのか

校則が必要な理由として、皆さん自身を守るため、皆さんの将来のため、というものもあれば、学校をよく見せたい、生徒を管理したい大人のため、という理由もありそうですね。
では校則が必要な理由を考えた皆さんが改めてブラック校則を振り返ってみると、どういった課題がありそうでしょうか?

―Bグループ:「ブラック」なところは必要以上に縛り付けられている感じがするから、という意見がありました。決まりのための決まり、というか…生徒の教育を受ける権利を守るために学校はあるはずなのに、かえって学びを制限されている感じがして。人権侵害では、という声がありました。
せっかくツーブロックを認めてもらおうと生徒同士で話し合う場を持とうとしたのに、先生から集まること自体を止められました。
あとは、先生によってルールが違うこと、校則として明記していないのにダメと言われるルールもあって。例えばLINEはダメとかSNS禁止とか…。

―Aグループ:確かに先生によっても違いますし、学校ごとにも差があるように思います。「縛り付けすぎ」と似た意見で、度を越していて、プライバシーの侵害や人権侵害になったり、個性が奪われているような感覚になるという意見もありました。

―Cグループ:自由が制限されストレスになるだけでなく、「校則が当たり前」と思いこみ柔軟な考え方が出来なくなるのでは、ということも心配です。先生自身が納得していなかったり、理由を説明できない校則が実際にあり、それは子どもにとっても納得できないものですよね。実際に機能しているのか曖昧なものもあります。

本質的な意見の数々を有難うございます。
文部科学省の生徒指導提要では、「校則の運用」について、「児童生徒の内面的な自覚を促し、校則を自分のものとしてとらえ、自主的に守るように指導を行っていくことが重要」で、「教員がいたずらに規則にとらわれて、規則を守らせることのみの指導になっていないか注意を払う必要がある」としています。

校則の使い方を誤ると皆さんが指摘するとおり、大切な居場所であるはずの学校で人権侵害が起きてしまいます。

校則に関わる子どもの権利条約

第12条:意見を表す権利
おかしい、と思うことは自由に自分の意見を言おう。

第13条:表現の自由
好きな服装を選んで個性を表現しよう。校則の理由などを知る権利もあるよ

第15条:結社・集会の自由
校則を変えたいと子ども同士で集まって仲間の意見を聞こう

第16条:プライバシー・名誉は守られる
下着や日記など、プライバシーはあなただけの大切なもの

第19条:暴力などからの保護
校則を守らないからといって叩かれたり、進路のことを脅されたり不当に扱われる必要はない

第28条:教育を受ける権利
学校のきまりは子どもの尊厳が守られるという考え方から外れるものであってはならない

第29条:教育の目的
教育は子どもが自分の持っている能力を最大限のばし、人権や平和、環境を守ることなどを学ぶためのもの
(出所)ユニセフ 子どもの権利条約カードブック(条見出し・画像)

時代にあった校則を!―私がすること、大人にしてほしいこと―

人権を学ぶ場であるはずの学校で「ブラック」と言われてしまうような校則がなくなるために、皆さんがチャレンジしてみたいことや、大人へ訴えたいことはありますか?

―Aグループ:時代の変化にあわせて、きちんと見直すべきだと思います。そのためには、私たちが、正式な文献を使いながら今の校則が合理的でない理由を校長先生にはっきり申し出たいと思います。
あとは生徒会の力を強くしたいです!

―Bグループ:ルールに対して意見を言う機会を作ってほしいです。「決まっているから」を変えられない理由にしないで、話し合いたいです。変わらなくても、まずは耳を傾けて欲しいです。多数派の意見だけではなく、個々の事情や少数派の意見があることを知ってほしいです。
…あと、意見を言える機会のときに、進路の脅しに使われたりもするので、意見を匿名で言えるようにしてほしいです。

―Aグループ:Bグループと同じで「子どもだから」ではなく、平等な立場で意見を聞いてほしいです。関連して、中立的な立場で意見を聞いてくれるような、そんな機関も必要だと思います。
あとは大人が説明のできない校則を見直す仕組みとして、一つ一つの校則がある理由をしっかり明記してほしいと思います。

最後に皆さん、大人に伝えたいメッセージを思い思いにお願いします!

  • 大人が説明できないものは、子どもにとっても納得できない!ちゃんと理由を説明してくれたら、理解できるのに。
  • 大人に言いたいことはめちゃくちゃあるけれど…せっかく勇気をだして意見を言ったのに「先生の時代はあったから」と跳ね返すのはもうやめてほしいです。時代の変化に向き合ってほしいです。
  • 大差のない校則なのに、違反すると「違反切符」が切られ、溜まると退学になるなんて、憤りしか感じない…。理由の説明できない校則はなくして!
  • 推薦受験などを「えさ」にするのではなく、中立的な立場で意見を聞いてほしいです。

特定非営利活動法人子どもNPOセンター福岡に所属する、ファシリテーターの皆様からのメッセージ

Aグループ(三宅様)

テーブルの上のアクリル板を挟んで、マスク姿の5人の中高生たち。
私が担当したAグループの参加者たちは、会場を見回して「ワ~大人の会議みたいだね~」と言いながら、始まる前からしゃべる気満々の様子。ワークがスタートしてからも、ブラック校則に関する沢山のエピソードで話はつきませんでした。「先生が説明できない校則は納得いかない」「時代とともに、見直してほしい」「隣の中学では、校長先生の声かけで校則の見直しがあったらしいよ」・・・。
私は、できるだけ邪魔をしないように耳を傾けながら「じゃー今までの話、ポストイットに書いてみようか」と促すことの繰り返しでした。今回の取り組みは、子どもの今を見据えながら、批判だけに終わらせるのではなく、子どもたち自身が仲間や大人たちの力もかりて、現状を変えていくことができるかもしれない、と感じさせるものでした。
中立的な立場で意見を聞いてくれるような、そんな機関も必要だと思います。との言葉が、子どもの今を物語っているように思いました。一人の大人として、子どもたちの小さな声にも敏感でありたい。そんな子どもセンスを磨きたいと思いました。
((特)チャイルドライン「もしもしキモチ」 三宅 玲子)

Bグループ(河津様)

今回のワークショップで感じたのは「みんな、大人が矛盾したことを言ってるって分かってるんだ」ということでした。校則に対して疑問を呈すると「決まりだから」と返される、教諭によって言っていることが違う、明文化されていない謎ルールがある――。つっこまれたら答えに困るような矛盾点を、しっかり分かっていました。その言葉の多くには、怒りがにじんでいました。
おかしいじゃないか、どうしてなんだ、と声を上げることは、子どもにも大人にも平等に与えられた権利なのに、どうしても子どもは、子どもというだけで封じ込められがちです。訴える場もとても少ないのだなと感じました。
一方で対話する姿勢を見せる学校や、生徒の自主性を最大限尊重する学校の事例も聞きました。自分の学校のことを誇らしげに語る生徒は、まぶしく見えました。謎ルールにがんじがらめにされないことで「もう半分大人なんだ、責任ある行動をしなければ」と実感している生徒もいて、とても嬉しい気持ちになりました。
教育現場の取材もしますので、学校の先生がとても大変なことはよく知っています。熱い思いを持って教育に携わっていることも知っています。その現場や組織に、「子どもの権利」の理解を深めつつ、ブラック校則について生徒と一緒に考えてくれる人がもっともっと増えたらいいなと思います。
(西日本新聞 河津 由紀子)

Cグループ(大西様)

今回、私もワークショップに同席させていただきました。私の印象に残っている生徒たちの感想(コメント)が2つあります。まず1つ目は、ある生徒から「校則について考えていたら、校則って誰のためにあるのだろうと思うようになった」という発言がありました。この生徒のコメントから、私は知らず知らずのうちに「子どものため」、「生徒のため」、「あなたのため」という大人側のエゴを押し付けているのではないかと強く感じました。ルールや決まり事は社会秩序を維持していくために大切なものですが、しかし一方的な押し付けであってはなりません。「押し付け」ではなく、対話によって「折り合いを付ける」ことがとても大事だと改めて感じました。
またもう1つ印象に残った生徒のコメントがあります。それは、「校則は変えられる!私たちがちゃんと伝えれば状況に合わせて修正できるもの」という発言でした。つい私なんかは「決まりは決まり」という発想を持ちがちですが、決まりは変えられないもの、ルールはより良いものに変更していくもの、という発想をもつ子どもたちの思考の柔軟さを垣間見ることができました。
生徒たちのこれらのコメントから、私は改めて校則って誰のためにあるの?、何のためにあるの?、何を目的にしているの?という視点をもって、今ある校則を再度しっかりと見つめていくことの必要性を痛感しました。
私たちの中にある意識を変えることで、ブラック校則は、もしかすると色んな色に変えられる可能性を持っているのかもしれません。
(筑紫女学園大学 大西 良)

編集後記

すぐに校則を変えなくてもいいからまずは話し合いたい、一つずつ、という現実的で対話を重んじる意見が多かったことがとても印象的でした。また、夏休み中にも関わらず、生徒手帳を改めてじっくり見つめ直したり、この日のために友人と話し合ってきたりと準備を重ね、当日は初対面同士でも垣根なく互いの意見を尊重する様子が心に残っています。
「私自身も自分の学校を変えるチャレンジをしていきたい!」と決意する様子を見ると、大人側は「子どもはわがまま」という決めつけで、大人も変わってほしいという子どもからのメッセージをないがしろにして良い時代は終わりに近づいているように感じました。なお、本座談会は福岡県の感染防止ガイドラインに基づき、県内の参加者のみが現地に集まり、オンラインとのハイブリッド形式で実施しております。
(編集者:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)

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