子どもの権利が守られているかを行政から独立した立場でモニターし、調査や勧告する権限を持つ機関を、国際的に子どもコミッショナー、子どもオンブズマン・オンブズパーソン、子どもの人権機関などといいます。
このホームページでは子どもコミッショナーということばを主として使用しています。
子どもはその発達上の状態ゆえに、とくに人権侵害を受けやすく、弱い立場にあります。子どもにとっては、自分の権利侵害に対する救済を求めるために裁判などに訴えることは非常に困難なうえ、自分の権利を保護してくれる機関へのアクセスも一般的に限られています。また、子どもは選挙権を有しておらず、子どもに関わる政策を決めるプロセスにも、かかわることが難しい状況にあります。
このように弱い立場にある子どもの権利を守るために、子どもコミッショナーは重要な役割を果たします。国連子どもの権利委員会の一般的意見第2号では、子どもの権利条約を実施し促進するために、独立して子どもの権利を守る機構の設置を推奨しています。この機関は、国連総会が1993年に採択した「国際連合・国家機関の地位に関する原則」(パリ原則)の指針に従って設立されることになっています。
子どもの権利を守るための政策を立案し実行するのは国や政府の責任ですが、子どもコミッショナーは、子どもの権利や利益が守られているか、行政から独立した立場で監視する役割を果たします。また、子どもの代弁者として、子どもの権利の保護・促進のために必要な法制度の改善の提案や勧告をします。このため、多くの子どもコミッショナーは、子どもとの対話や子どもから意見を聞くことを大切にしています。子どもコミッショナーは、不利な立場におかれた子ども達、例えば虐待や社会的養護を受けていたり、障害を持っていたり、少年院や児童養護施設にいる子どもたちに会いに行く権限を持っています。また、子ども達からもアクセスがしやすいことが重要です。
子どもに関連する人や、子ども自身からのものを含む苦情申し立てに対応して、必要な救済を提供することも大切な役割です。日本の自治体で設置されている子どもオンブズパーソンは、こうした個別救済の役割を果たしています。
ほかに子どもの権利に関する研修や意識啓発なども行います。
1981年にノルウェーで初めて法的な権限をもつ国家機関として子どもオンブズマンが制度化され、その後、1989年の国連総会で子どもの権利条約が採択されたことを契機に世界に広まりました。2012年のユニセフの報告書によると、世界70か国に200以上の子どもコミッショナー/オンブズパーソンが設置されているとあります(地域レベルの組織を含む)。近年では2013年にオーストラリア、2019年にはマレーシアにも設置されました。
ヨーロッパ子どもオンブズパーソンネットワークによると(The European Network of Ombudspersons for Children: ENOC)、2020年現在のヨーロッパでは47カ国中、34カ国が設置しています。
日本における子どものための独立した権利擁護機関は、1999年、兵庫県川西市が子どもの人権擁護・救済のための「子どもの人権オンブズパーソン」を設置したのが最初です。これがモデルとなって川崎市、埼玉県、世田谷区などにも広がり、現在は30以上の自治体に存設置されており、その数は増えつつあります。名称は子どもオンブズマン、子どもの人権擁護機関、子どもの権利擁護委員会など様々です。これらの機関の多くは子どもの権利条約を根拠として、首長の附属機関として設置されており、子どもやその保護者や関係者の相談にのり、調査や救済等の活動を行っています。
しかし、日本には国レベルの独立した子どもの権利を守る機関は存在しておらず、国連子どもの権利委員会からも、国レベルの子どもコミッショナー/オンブズパーソンの設置について勧告を受けています。